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一次創作ブログ

【MOBSTERS/1部6話】血の掟 (前編)


『MOBSTERS 1部カステランマレーゼ戦争編』
6,血の掟 (前編)


1部の主な登場人物

前回 1-5







アントニオ・ルカーニアの10歳の息子トートが行方不明になったのは
今から22年前、1907年の冬だった。

彼と妻のロザリアは息子の行方を
方々手を尽くして探し回ったが遂に見つからなかった。
ロザリアは心を病んで倒れてしまい、
アントニオは仕事と彼女の面倒で疲れ果てていた。

湾岸労働者として働いていたアントニオだったが、
ある日過労から仕事中に事故を起こし身体を痛めてしまう。
使い物にならなくなった移民の低賃金労働者は情け容赦なく切り捨てられる。
彼もその例外ではなく大切な職を失ってしまった。
その場凌ぎに闇金融から借りた金は瞬く間に莫大な借金に膨らんでしまった。
このままでは家族を路頭に迷わすことになる…。
下手をすれば妻や娘を差し出せと云われかねない……。
アントニオは、独りある決心をする。


彼はサルヴァトーレ・マランツァーノという男のもとを訪ねた。
アントニオとは旧知の中でシチリアにいた頃も
アメリカに来た時も甲斐甲斐しく面倒を見てくれた親友だ。
そして彼は、シチリアの犯罪組織コーサ・ノストラの幹部だった。

アントニオは彼に犯罪ビジネスの手伝いをさせてほしいと懇願した。
それまで堅気の仕事を貫いてきた彼だったが、
もう犯罪の世界で裏の金を稼ぐしか家族を養う方法はなかったのだ。
マランツァーノは彼の願いを受け入れ
彼に密輸業の運び屋をやらせることにした。
アントニオはもちろん家族には堅気の仕事だと嘘を付いていた。
そしてマランツァーノはその時、アントニオに“ある掟”を誓わせた。
決して破ることは許されない“血の掟”を――。


当時のコーサ・ノストラは
ジョー・ザ・ボスことジョー・マッセリアが組織の頂点に君臨していた。
彼の腹心であり組織ナンバー2の実力者と云われていたのが
サルヴァトーレ・マランツァーノだった。
彼は非常に敬虔なクリスチャンでかつて神父になることを志していた。
そのためか何よりも教養と律法を重んじる
当時のこの世界では非常に珍しいタイプの人物だった。

長年マッセリアに尽くしてきたマランツァーノだったが、
彼とマッセリアは基本的に全くタイプの異なる男たちであった。
内心ではマッセリアの横暴な振る舞い、品のないビジネスに愛想を尽かしていた。
コーサ・ノストラは既に事実上
マッセリア派とマランツァーノ派に二分されたいたのだ。
マランツァーノは何年も描けて何年もかけて密かに手下を懐柔し
マッセリアに対抗する勢力を集め一大発起の時をうかがっていた。
アントニオ・ルカーニアもマランツァーノ陣営の一員だった。


そんな最中、さらなる不幸がアントニオを襲った。
幼い愛娘のコニーが重い病を患ってしまったのだ。
まだ借金も返しきれないこの状況で娘の治療費を作ることは容易ではなかった。
それ以前にたとえ金を用意できたとしても
移民の、しかも犯罪組織の片棒を担いでいる男の娘を
満足に診てくれる医者がいるのかどうか……。
そうこうしている内にも彼の借金はまた増え始め、
娘の容体はどんどん悪くなっていった。
来る日も来る日も頭を抱え悩んだ。

親友のマランツァーノなら治療費や病院を手配してくれるかもしれない。
しかし彼は今組織に反旗を翻そうとしている只中にいる。
彼だけではなく組織そのものが
まさにいつ爆発してもおかしくないというくらいの緊張感に包まれていた。
その上彼に無理を云って仕事を都合してもらっている手前、
この期に及んでまだ私事で面倒をかけてしまうかもしれないことを
申し訳なく思うあまりなかなか云い出すことができなかった。


そんなある日、アントニオは初めてジョー・マッセリアと会うことになった。
マッセリアはビジネスと時こそピリピリして横暴な男だったが
会食の時は女と遊んでいる時よりも機嫌良く陽気に振る舞う人物だった。

マランツァーノは彼のことを毛嫌いしているようだったが、
事実大物のマッセリアに好意をもち敬意を払う部下は大勢いた。
アントニオもまたマッセリアを敵視しているわけではなった。
やがてマッセリアはアントニオを気に入り
運転手やボディーガードと称して度々外に連れ出すようになった。
彼ならマッセリアの様子を疑われずにうかがい知ることできるやもしれんと、
マランツァーノもそのことを黙認していた。


普段は人当たりのいいマッセリアに
アントニオはやがて他に人のいない所で自分の話をポロポロとこぼすようになる。
家族のこと、娘の病気のこと、金が必要なこと、
マランツァーノの親友であること――。
するとマッセリアはアントニオにある提案をしてきた。
「家族の面倒を見てやる代わりに、
マランツァーノの動向を報告しろ。」と――。

彼はここ数年のマランツァーノらの不穏な動きに気付いていたのだ。
いくら歳を取り力が衰え出した老兵と云えど
長年修羅場を潜り抜けてきた百戦錬磨の男、
仲間の裏切りの予兆くらい見逃すはずがなかった。
アントニオにはマッセリアの年季の入った色のくすんだ瞳が
その奥で怒りと闘志の炎を激しく燃やしているように見えた。

これは明らかな脅しだった。
「逆らえば、死――。」
脳裏に過ったその絶対的な恐怖に抗うことができなかった。
それでも彼は家族の命と親友との掟を何度も天秤にかけた。
必ずどちらかを振るい落とさなければならない。
永遠とも思えるような長い時間が体内で流れていたように感じた。
そしてマッセリアは、さらにアントニオに小さく耳打ちした。


「倅の居場所を知っている。」
彼は、マランツァーノに誓った“血の掟”を破った――。







前回のあとがきで次は“第三者が語る過去の出来事”を書く
みたいなことを云ってました。

最初はこれまで通り主人公のチャーリーが
ナレーションになって語る予定だったのですが、
チャーリーはこのアントニオの過去話ではすでに行方不明になってるから
チャーリーに喋らすとなんか違和感あるなぁと思って
普通のナレーション形式(強いて云うなら語り部は私かw)になりました。

でもこの方が圧倒的に書きやすくなったし(セリフないからw)
読みやすくなったんじゃないかなと思います^ω^

あと一回(後編)でアントニオの過去を終わらせて
また前回のチャーリーとマランツァーノのシーンに戻る予定になっております。
よろしければどうぞお付き合いくださいませ!m(__)m