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一次創作ブログ

【MOBSTERS/1部5話】仁義なき領域


『MOBSTERS 1部カステランマレーゼ戦争編』
5,仁義なき領域


1部の主な登場人物

前回 1-4

次回 1-6







罪人と処刑人の対峙。
本当はこれが“逆”になることを望んでいたのに。

完敗だった。
マイエルが予想していた通りになっちまった。
やっぱり友人の忠告は訊き入れるべきだったのかもしれないな。


「ひでぇじゃねぇか、マランツァーノさんよ…。
俺はあくまでアンタと“話合い”に来たつもりだったんだぜ。
それに“中立地帯”でのいざこざはマフィアの間じゃご法度だろう?」

「つい先日、ジョセフ・プロファチのシマは中立地帯ではなくなった。
長らく決断を保留していたプロファチ氏はこのたび、
我がファミリーに味方すると宣言したのだ。
よって、彼の領地であったこの土地はすでに我々の陣営ということになるのだよ」

「驚いたな、初耳だ。
俺が話したときには“中立地帯での身の安全は保障する”って訊いてたんだがな。
クソ、あのおっさん…しれっとテキトーなことを――」

「すまないが、これは私が電話で君と会う約束をした“直後”の話だ。
君が知らなかったのも無理はない」

まんまと騙され罠に嵌められたことに文句をいう気力はなく、
俺はやれやれと云わんばかりに
ほとんど吊るされた身体の揺れにまかせるように力なく首を横に振った。

昨日味方だった奴が次の日敵になる、そんなことはよくある話だ。
それどころか、一緒に仲良く飯を食った後
“じゃあまた明日”と相手に背を向けた瞬間、
後頭部に銃弾を撃ち込まれることだってざらにある。

嘘の笑みを浮かべて手を振って、果たす気もない約束を平気交わし、
相手を卑劣な罠に嵌める。
どんなに深く強く培った友情も信頼も当てにはならない。
むしろ身を滅ぼす原因となる心の油断を生じさせてしまう。
この世界で唯一不変的なものがあるなら、それは“裏切り”だ。
弱い者を捨て、強い者へ乗り移る行為。
より強くあるために邪魔になる存在を排除する行為。
戦うためにも守るためにも、
自分が生き残るためには、いつか必ず犯さなければならない大罪。

「お前たちはよく戦った。
600の兵隊を有する我がファミリーと
正面から抗おうとしたその勇気は驚嘆に値する。
誠に勇敢だった、だが…愚かだったな。
マッセリアはもう耄碌してしまった。
昔は私も尊敬するマフィアのボスだったが
歳と大金が奴を肥え太らせ狂わせた。
血を好みいたずらに争いを起こし、
食い物を貪りメスを犯すことしかできなくなった醜い白豚だ。
あんな男に君たちはいつまで付き従っているべきではなかったのだ。
私は幾度かのチャンスを君に与えたが、
あの忌々しい種族の連中に唆された君は一度も訊く耳をもたなかったな」

数日間にわたる拷問の末
くたびれ果て顔もまともに上げられなくなった俺の前に
マランツァーノはやってきた。
視界や意識を今にも失っちまいそうなのに
何故か頭の中には“ある映像”が鮮明に映し出されていた。
子供の頃の俺…見上げたリバティーの像、人で溢れるニューヨーク港。
前から近づいてくる大柄の紳士、そして俺の隣には――。

俺は力を振り絞って重い頭を持ち上げこの両目で奴の顔を捉えた。
ここで逃がすわけにはいかない。
もし俺がこのまま志半ばで倒れたとしても
俺には一つだけ確かめなければならない真実があったんだ。
俺がこの世界に来た目的、そして今たった一人でここまで来た理由――。


「…なぁ、マランツァーノ。
アントニオ・ルカーニアって男を覚えてるか?」

「アントニオ?」

「今アンタとマッセリアの野郎がやってる
このドンパチ戦争の…引き金になった男だよ」







舞台が動かず会話する人物が少ないシーンは書きやすいですね。
ここまでは比較的順調に来れました!

が、次回は時代は戻らないと思いますが
チャーリーの口からまた昔の回想のようなものが語られるような気がします。
正直“第三者が語る過去の出来事”を
私なんぞが苦手な文章でうまく伝えられるのか頗る不安ですw^^;

でもこの件が終われば物語の最初の1928年に戻って
マイエルたちとワイワイ仕事し始めた楽しい頃の話が書けるはずなので
もう少しこのシリアスシーンを頑張って書ききりたいと思います>ω<

読んでくださった方も暗い雰囲気が続いてうんざりされているかもしれませんが
できる限りあと2回程で一段落つきたいと思っておりますゆえ
どうぞもうしばしご辛抱いただければ有難く存じますm(__)m