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一次創作ブログ

【MOBSTERS/1部4話】二人のサルヴァトーレ、再び


『MOBSTERS 1部カステランマレーゼ戦争編』
4,二人のサルヴァトーレ、再び


1部の主な登場人物

前回 1-3







毎夜夢に見るのは、
冬の寒空の下暗い街の中をひたすらに走っていく一人の少年。

凍えるような吹雪に肌を傷つけられ
当てのない行く先の闇に怯えながら
それでも走る脚を止められない。

帰ることは、もう許されないから。





1929年10月

「お目覚めかいルチアーノ!」
「ぐっ…!!!」

腹に強烈な膝蹴りを喰らって俺は我に返った。
息をするたび胸の中で折れた肋骨が肺を引っ掻き回しているのがわかった。
足元に視線を落とすと決して少なくない血が塊をつくっていた。
紛れもなくこれは俺の血なんだろうな。

両腕は天井を走るパイプに掛けられた鎖で吊り仕上げられ
脚は半ば宙ぶらの状態だった。
まるでゴルゴダの丘で処刑されるイエス・キリストだ。
それにしちゃあこの舞台はあまりにもお粗末だが。
霞む両目で周りを見渡す限り、ここはどこかの古倉庫のようだ。
機材木材が乱雑に放置され、壁も傷や穴だらけだった。
処刑の見物人は花もクソもねぇ
スーツコートに帽子を被ったむさ苦しい男たちばかり。

「どうせならもっと綺麗な女に可愛がられてぇな…」
「悪かったな、残念だがここには狂犬しかいねぇよ!!」

左頬に入れられた拳に脳みそをグワングワン揺らされ、
俺はまた一つ自分が死に近づいているのを感じだ。
それにしても華奢な割に重い拳だ、このチビのどこにそんな力があるんだ。

「そろそろおねむの時間か?まだたったの3日ばかしじゃねぇか」
俺の前髪を掴み強引に顔を覗き込みながら、
奴はそれこそ狂犬じみた笑いを浮かべながら唾を吐きかけた。

野郎の名はヴィンセント・コール、通り名はマッドドッグ。
俺は…いや、俺たちはここ数年
ずっとマッド率いる暗殺集団に命を狙われ続けていた。
これまでは何とか生き延びてきたが、とうとうこうやって捕まっちまったらしい。
この拷問は本番の処刑前の前夜祭といった感じなんだろう。

「俺はさっさとお前のムカつく顔に弾丸をぶち込んでやりたいんだけどな、
マランツァーノの旦那が最後にお前に話があるってんだ。
あの人は“慈悲深く”っていけねぇや。
自分以外の敵なんて見つけたらすぐに殺しちまうのが後腐れねぇのによ」

そう、こいつの上にはまだボスがいる。
マッドはその男の雇われ兵でただのフリーのヒットマンにすぎない。
俺たちの敵はもっと上にいるんだ。


シチリアマフィアの大組織コーサ・ノストラ、
その中で今実質的ナンバー2の地位に君臨する男、
サルヴァトーレ・マランツァーノ。
俺はこの男を倒すためにこの世界に来たんだ。

あれから20年の月日が流れた、長かった…。
寒さに身を切られ、深い闇に飲み込まれ、
仲間を振り解き一人になっても、この日のために――。


ガゴォンと倉庫の大きな扉が開かれた。
外はもう夜で、嵐の前を予感させるように
厚い雲に覆われた赤い月の光が不気味に差し込んできた。

両脇にマシンガンを構えた屈強なボディーガードを携え、
その男はゆっくりと俺の方に歩み寄ってきた。
マッドたちのようなチンピラまがいのからかいの笑みなどまったく浮かべず
冷たく鋭い眼光を真っ直ぐこっちに向けてくる。
コォンコォンと質のいい革靴が音を立てるたび、
胸まで伸びたブルネットが揺れコロンの匂いが漂ってくる。


「やっぱり、覚えのある光景だ。“久し振り”、マランツァーノさん」
「待たせたな、ルチアーノくん。最後の審判を始めよう」







やっぱり時代飛びました(笑)
前回の回想シーンから一変してMOBSTERS1部の本筋軸1929年です。

で、実はこの話も1部の物語の中盤頃の話なんです。
この窮地の回が終われば、1部が始まる最初の1928年にまた戻る予定です。
ホントにあっちこっち飛んで飛んで回って回ってしてスミマセンm(__)m

本編でのチャーリーとマランツァーノの対峙シーンですが
まだマランツァーノが少年時代のチャーリーにどう関わったのかを
明記しておりませんのでイマイチ緊迫感が足りてない…
というか伝わりようがないかもしれません>ω<

そちらもいずれまた追々回想シーンでkwsk☆彡
「また戻んのかよ!!!」というツッコミはどうかご勘弁を。