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一次創作ブログ

【MOBSTERS/1部3話】幼い過ちに許しを


『MOBSTERS 1部カステランマレーゼ戦争編』
3,幼い過ちに許しを


1部の主な登場人物

前回 1-2

次回1-4






凶作と飢餓に追われるように故国を離れたアイルランド人。
新しい農地の開拓のためにやってきた北欧人。
鉄道建設の低賃金労働者として徴発された東洋人。
そして、東ヨーロッパ各地から迫害を逃れてやってきたユダヤ人。

この国にはありとあらゆる人種の人間が世界中から集まり
もう一つの“小さな世界”が存在していた。

だがその中身はいわゆる“大きな世界”と何ら変わりはない。
人種や国籍によって住む場所は決まっていたし、
大きな通りはそれぞれの移民たちの居住区を分ける国境線のようなものだった。
就ける仕事や通える学校も限られていた。
給金に差が出れば生活に差ができ、教養が違えば考えも異なる。
相容れない人間たちの間には必ず争いが起こる。
争いには勝者と敗者がいて、強い者が弱い者を従わせ支配する弱肉強食の世界。
このアメリカの移民居住区はまさにそんな世界の縮図だった。


程なくして父は“例の男”の口利きで
湾岸労働者として日雇いの仕事をいくつも掛け持ちしながら働き始めた。
そして俺はその僅かな稼ぎで
イタリア系移民の子どもたちが集まる学校に通わされた。

同じ民族の間にも「上と下」っていうのがあって
俺たちシチリア生まれの南イタリア人は
19世紀中頃にはすでにこのリトル・イタリーの支配階級としてのさばっていた
北イタリア人に軽視され抑圧される肩身の狭い毎日を強いられていた。

父はそんな差別にも黙ってじっと耐えていたが、
あの頃の俺は誰の性分なのか感情的になりやすく
そんな理不尽な学校の環境には到底馴染めず
毎日のように北イタリア人のクラスメイトと喧嘩をした。

学校に呼び出された母親は教師やクラスメイトの親に
何度も頭を下げて俺を烈火の如く叱りつけた。
母は「トート、私たちがここで生きていくためには
お父さんのように従順に耐えなければいけないの」
なんて話を何度もくどく訊かせていた。
その時の母は毅然とした面持ちだったが、
部屋で一人になると声を殺して泣いていた。

母は俺の素行不良を父に話すことなかった。
仕事帰りの疲れた父にこれ以上余計な心労をかけたくなかったのだろう。
でも父はすべて知っている風だった。
相変わらず何も云わなかったが、
俺の頭を包み込むように撫でながらほんの少し微笑んだ。


そうだ、俺は親に殴られたことがなかったんだ。
その頃から俺は両親のその優しさが妙に居心地の悪いものに感じ始めていた。
自分がただ“護られているだけの存在”であると思った時
何だか無性に悔しくて、歯痒くて、嬉しいのに悲しくて、涙が止まらなかった。
俺は充分愛されていたはずなのに……
ここが好きなのに、ここにいたくない――……。

大きな世界の中の小さな世界で、
小さな街の小さな箱庭の狭い部屋で、
大きな両親に護られながら
“ただ生かされることしかできない小さな自分“。


「スクーズィ。父さん、母さん…」
気付いたら俺は一人、夜の異世界に飛び出していた。
今まで生きていた大きな世界とも小さな世界とも違う、
まだ何も知らない異色の闇の世界。

優しかった両親、仲の良かった兄弟、生まれたばかりの妹を残して
たった一人で逃げ出した。
今でもこう考える、あれは俺が犯した人生最大の罪であったと。
10歳になった1907年の暮れ、
視界と足場を阻むニューヨークの雪はひどく痛く俺の身体を突き刺した。







もともと前半と後半で3と4に分けるはずだったお話を
無理矢理一つにまとめたのでちょっと強引な展開になってしまいましたm(__)m

でもまだこの辺りは回想プロローグなので
できるだけ手短に切り上げて早く本編のお話の方を
じっくりしっかり書いていきたいですね!>ω<

…もしかしたら次から急に本編の時代に飛ぶかもしれません。
このままチャーリー少年のその後を書くかもしれませんが、
まだ全く手を付けていないので未定です。
個人的にはもう本編いきたいです(笑)