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一次創作ブログ

【MOBSTERS/1部2話】リトルイタリーの明け暮れ


『MOBSTERS 1部カステランマレーゼ戦争編』
2,リトルイタリーの明け暮れ


1部の主な登場人物

前回 1-1

次回1-3







生まれてからこの方ずっと修羅場で生きてきたが
あの頃の生活は俺の人生で最悪の地獄だった。
何度刑務所にぶち込まれてもそれは変わらない。
だからこの先死刑台に上がる時が来たとしても
あの頃に戻りたいと後悔することだけは絶対にないだろう。



1907年1月、俺たち家族はアメリカにやってきた。

「サルヴァトーレ!」
「アントニオ、よく来たな。家族はみんな元気か」

船を降りると港で一人の男が父を出迎えた。
仕立ての良い黒いコートと帽子を身に纏い
ブルネットの黒髪と口髭を美しく整えた大柄な男は
まさにイタリア紳士と云った風だった。

「トートだな、大きくなったな」
俺の赤い癖毛頭を撫でた男の右手の小指には大きな指輪が光っていた。
十字架が刻まれた青い宝石の指輪。
後にそれがある組織の頂点に立つ男が身につける権力の証だということ
俺は知ることになる。


俺たちが住むことになった街は
ニューヨークのローワーイーストサイドにあるイタリア人居住区だった。

通称「リトルイタリー」。
大通りの両脇には赤レンガの建物や茶色い石壁の建物と
屋台のテントが延々と続いていく。
道は忙しなく行き交う人々や荷馬車で
自分の足元も見えない程にひしめき合っていた。
耳に入ってくる英語は訊き慣れたイタリア語の訛りが強い。

狭い路地に入ると左右の建物の窓と窓を橋のように繋ぐ洗濯物が
空を覆い尽くすように干されている。
この光景はイタリアでもよく見た光景だ。
生まれ育った故郷の習慣というのは外国に来てもあまり変わらないらしい。
ここはまるでパルレモの街をそのままイタリアから持ってきたようだ。

故郷の面影は外国に来たばかりの子供だった俺に少なからず安心を与えたが、
どこか「違和感」を感じ始めるには差ほど時間はかからなかった。


「ここが新しい家だよ」
父に連れられて行き着いた場所は想像していたものと違った。
表通りを裏道へ、裏道を路地へ。
いつまで歩けばいいのかと思っているうちに
もう街の外れにまで来てしまっていたようだ。

「空が遠い…」
真上には四角に切り取られた曇り空が無地のキャンバスのように浮かんでいた。
移住してきたばかりのイタリア人が住む古いアパートの密集地。
陽の当らない薄暗い場所でカビの生えた灰色の壁には枯れた蔦が張っていた。
「太陽の国イタリア」とは似ても似つかない湿ったく汚れた穴倉だった。

建物の窓から密かにこちらをうかがう視線に気づいた。
アパートに住むイタリア移民たちだ。
みんな表情に活気がなく、心の入っていない肖像画の中の住人のように見えた。
だが俺たちに注がれている視線はどこか冷ややかで寂しそうに思えた。


貧しさは生活だけでなく、人の心を蝕む。
そこはいわゆるスラム街だった。

俺たちと同じように貧困の苦しみに耐えきれず
一文無しで藁をもすがる勢いで故郷を飛び出し
この国に一攫千金を夢見てやってきた貧しい移民たちが暮らす場所。
同じ国から同じ思いでやってきた同じ人間なのに
なぜみんなあんなにも自分たちと違って見えるのか。

滲み出てくるような寒気と怖さに身を捩っていると
父が俺の身体をそっと抱き寄せてた。

「あまり良い所じゃないが、しばらく我慢すればいいだけだ。
いつか父さんがお金を貯めてもっと明るい場所に大きな家を建ててやるからな。
トートも頑張って勉強するんだ。賢くなって立派な仕事に就けるように」

父は優しくそう云った。
気こそ弱かったがいつも陽気に振舞い俺たち家族を護ってくれた父。
そんな父の言葉だから信じようと思った。
「さぁ、もう日が沈む。早く家に入ろう」
夢を、希望を、いつか、いつか…。


だがそんな薄っぺらい夢はあまりにも呆気なく、
そして残酷に裏切られることになる。
俺たち移民に「差別」という無情の現実を突きつけて。






2も1と同じく淡々とした状況説明みたいな内容になってしまいました。
あまり物語小説って感じがしませんねw^^;
もう少し抑揚と云うか変化を付けたかったのですが…。
まだ今は時代背景を表していくのに精いっぱいです>ω<。。
キャラたちを物語の中で本格的に動かせるのは
しばらく先の話になると思われますが、
どうか気長にお待ちいただければ幸いに思いますm(__)m