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一次創作ブログ

【MOBSTERS】フラミンゴに恋して【4部】


クリスマスシーズン恒例のベニヴァジ(ベニーとヴァージニア)祭り。
今年は本編小説でお送りします♪

※ついでにTOPページも昔のベニヴァジ絵に替えときました。






1942年、ロサンゼルス、ヒル邸。



かけた電話の数も
贈った花束の数も
囁いた愛の言葉も

もう覚えていない。

今までそんなことは一度もなかった。
そんなもの、一度贈れば十分だったからさ。

水を与えれば必ず花が咲くように、
彼女たちの答えはいつも決まっていた。

「Yes,Mr.…」



「No!Noよ!」

「ニューヨークではどうなのか知らないけど、
名前もないような恋人役のオファーも、ご機嫌取りの花束も、
使い古された愛の言葉も、このハリウッドでは大安売りなの」

「見てくれと口説きの文句だけが一人前の安っぽい色男、
女を漁るなら余所へ行ってやりなさい」


ニセモノの恋ばかりさせられてきた。
いや、強制されたわけじゃない。
俺が自分で選んだ“仕事”なんだから不満は云わねぇさ。
ただ…だから気付かなかったんだ。
ホントウの恋がこんなに手強いものだなんて。


「もう電話をするのも花を贈るのもやめていただけないかしら。
あと、雨の中私の家の前に座りこむのも」


暗い地面を何時間も見つめていた俺のエメラルドには、
見上げた視界に入った彼女の金色の髪が
まるで目覚めの朝日のようにひどく眩しく感じられた。


「――君の帰りを待ってた」

「そう、好いた女を出迎えるのには最高におしゃれな恰好ね。
でもどんな綺麗好きにしても、ちょっとシャワーを浴びすぎだと思うけど」


雨に打たれて萎れた薔薇の花束、
セットの崩れた自慢の黒髪、泥の跳ねた下ろし立てのスーツ。
今彼女のアメジストには、どれだけ情けない俺が写ってるんだ…。
恰好悪い…女の前でこんなに恥ずかしい思いをしたのは生まれて初めてだ。

間の悪い雨を憎ったらしく思ったが、
一番見られたくないものを紛らわせてくれていたことだけは感謝した。


「まるで真っ黒の濡れ鼠ね。
東から西海岸にまで悪名を轟かせたベニー・シーゲルが訊いて呆れるわ」

「君は本当に棘の多い薔薇だ…」

「だから手折ってみたくなったのかしら?」

「そうじゃないさ、そんな…いや、そうなのか…そう、かもしれない」

「ふふ、あなたって女に責められると震えちゃう性質?」

「…いや、こんなに不安なのは初めてだよ。わからない、寒いのか…怖いのかも」


彼女と出会い、想いを募らせ始めてから毎夜のように見る悪夢。
薔薇の棘に身も心もズタズタにされた自分の姿が脳裏に過る。
真っ赤な水溜りに倒れ伏して、すべてを失い、もう二度と戻ってはこれない。

恐ろしい、心から、身体の底から震えがくる。
それでも――。


「!」


頭上を薄桃色の大きな翼で覆われた気がした。
それは彼女が身に着けていた温かい羽根のショールだった。


「私も初めてよ。今まで足蹴にしてきた…
こんな泥まみれの小汚い濡れ鼠を拾ってやってもいいかもなんて思ったのは」

「愛も恋も、ニセモノやツクリモノでしか知らない男と女。
きっと私たち、お互いに身も心も傷付け合うだけでしょうね…」

「それでも、愛してくれるんでしょう?」


それでも、フラミンゴに恋をしたことを後悔しちゃいない。
そして、お前を諦めたくない――!


「…じゃあ、君の家に入っても?」

「Noよ!」

「はは、君の答えはいつもNoだな」

「そんな恰好で入られたら私の家が汚れるじゃない。
フラミンゴの庭に入ろうなんて百年早いわよ、鼠さん。
あなたのおうちに泊めてくださる?」

「…鼠小屋でいいの?」

「答えは?Mr.Siegel」

「…Yes,Ms.Virsinia」






ほんの少し早いですが、メリークリスマス!
皆さんに主の愛と幸あれ☆彡