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一次創作ブログ

【MOBSTERS】お金のお付き合い【2.1部】

 
 
1935年某月某日、ルチアーノ事務所にて。
 
 
 
「なんだこれは…?」
 
金色のつり上がった眉をピクリと動かしながらそう訊ねた男は、
ルチアーノファミリーの財政顧問マイエル・ランスキー。
 
「何って、仕事の報酬の請求書」
 
もう一人の金髪は相手の顔を見ようともせず、
ソファーに深く腰掛け机に足を置き爪を鑢で整えながら飄々と答えた。
まるで傲慢極まりない社長のような振る舞いだが、
本当にそうなのだから洒落にならない。
 
殺人株式会社マーダーインク社長ルイス・バカルターだ。
 
 
「それは分かってる!この異常なゼロの数はなんだと聞いてるんだ、レプケ!!」
どうやら異常な数のゼロが書いてあるらしき紙を机に叩きつけマイエルは怒鳴った。
 
一方のルイス・レプケはようやくマイエルの顔を見たかと思ったら、
眉と口角を上げてニヤッと笑った。
 
 
「妥当な金額だと思うけど?なんたって今回は数カ月がかりの大仕事だったし。
アルバートとカルロもずっとそっちに貸してあげてたでしょ。
おかげで結局この僕が直々に出向くことになったんだからさ」
 
「手を煩わせたのは分かっているが、もう少し現実的な数字にしてくれないか?!
こっちだってハーレムの一件で金銭的にもでかい打撃を喰らってるんだ。
頼むからうちの事務所を潰さないでくれ」
 
眉間の皺に拳を添え風邪の頭痛に苦しむようにマイエルが云った。
 
 
そんな彼を相変わらずニヤニヤと楽しそうに眺めるレプケ。
どうやら仕事の報酬として巨額の金を請求する度に行われていると思われる
このやり取り、苦悩するマイエルの姿を面白がっているようだ。
 
まったくもって趣味が悪い。
 
 
レプケはソファーから反動をつけて身体を起こし、
今度は机に向かって前のめりになった。
そして懐から万年筆を取り出し、
マイエルが机に叩きつけた請求書にスラスラと何かを書き始めた。
 
「しょ~がないなぁ。じゃあ金額はこれで…支払いは分割でいいよ。
10年来の同志だし、そのくらいは融通してあげる!」
 
万年筆の頭を頬に差し込み満面の笑みを向ける姿は
どうもあざといクソガキのように見えて仕方がない。
 
 
「ああ、恩に着る」
マイエルは目を閉じながら力なく請求書を改めて受け取った。
 
「相当疲れてるみたいだね。
ハーレムの事終わってからもう2カ月だけど、まだゴタゴタしてるわけ?」
 
「ああ…そうだな。ハーレムの復興やら事後処理はまだまだ片付きそうにない。
猫の手も借りたいくらいだよ」
 
「悪いけど、僕らが手伝えるのは“殺し”だけだから、
いくら同志に頼まれても雑務は引き受けられないよ?」
 
「分かっている。そのために作ったんだからな、マーダーインクを」
 
 
マイエルとレプケはお互いに柔らかい笑みを向け合った。
だがその顔の裏側には、お互いの関係・立場・理念、様々な思惑を
示し合い確認し合うためのものだった。
 
 
「そういえば、お宅のボスさんはどうしたの?
いても猫の手より役に立つとは思えないけど、
こんなときにボスが外出歩くのって危なくない?」
 
レプケは遠い景色を見渡すように手で作った双眼鏡で狭い事務所の中を見渡した。
 
「…あいつは、墓参りだ」
今度はマイエルがレプケから目をそらしたままボソッと呟くように云った。
 
「あぁ、そう。今月も行ってるんだ。律儀というか女々しいというか」
 
レプケはそのことに関してはまるで興味がないと云った素振りで、
適当に宙を仰ぎながら独り言のように呟いた。
 
「昔からそういう奴だからな。自分勝手で、執着心を捨てられない、そういう――」
マイエルは逆に視線を地に落としながらそう云った。
 
自身では心の中で呟いているつもりだったのだろが、
その声はレプケの耳にも密かに届いていたと思われる。
 
それゆえの、この、何かを懸念したような表情なのだろう。
 
 
「いつ帰ってくるのかな。ちょっと話をしたいなぁと思ってたんだけど」
 
「今日はまだ帰って来ないよ。花を二つ持っていったからな。時間がかかるだろう」
 
「二つ?…ま、いっか。
みんな忙しそうだし、僕も次の仕事の準備しなきゃだったわ。お邪魔したね」
 
 
マイエルは扉に向かうレプケを追うようにスクと立ち上がった。
 
「ああ、こっちこそ時間を取らせて悪かったな。
請求書はこの通り受け取った――…。
 
?!!おい!!なんだこれは!?」
 
図らずも振り出しのセリフに戻ってしまったマイエル。
 
 
去り際の背中に再び怒号を受けたレプケは、今度はキョトンとした表情で振り返った。
「何?まだ何か?」
 
「こっ、この金額はなんだ!?10倍になってるぞ!!」
今度のマイエルの声は怒りを通り越してなんだか震え声だった。
 
「あー、それ利子ね!分割払いは利子付きが当たり前でしょ?
もちろんちょっと『友だち割増し』させてもらったけどね。
なんせ、10年来の同志 だ・か・ら★じゃねーっ!!」
 
「~~~~!!!」
 
ぐうの音も出ないマイエルを尻目に、
レプケはコートと帽子優雅に身に纏い、美しい立ち振る舞いを大いに見せつけながら
ランウェイを歩くモデルのように去って行った。
 
 
「今日の駆け引きは、僕の勝ちだね♪」
 
これがアメリカ一金にがめつい二人のギャングの、ちょっとした日常のやり取り。
 
 
 
 

 
 
マイエルとレプケのほのぼの取引き現場(?)でした^^
 
多分時間軸的にハーレム篇の後日談みたいな感じです。
「だからなぜ話を後ろから書く!!」というツッコミはどうかご容赦を;;;
 
 
取り分け金儲けにがめつい二人ですが、決定的に違うところは
マイエルは倹約家だけどレプケは浪費家ってことですね!
 
マイエルは常に赤字の事務所のためにコツコツお金を貯めてるけど、
レプケはほとんどの報酬を私利私欲のために使いまくって遊んでそう^^;
 
高級車とか自家用機などをコレクションしてそうなイメージがありますね。
でも運転免許何も持ってないから操縦は全部アルバート、みたいなw
 
 
とりあえず今回の小説は、
レプケはこういうキャピっとしたうっざい喋り方とキャラなんだよ
っていうのを分かってもらえたらいいなと思いながら書かせていただきました!