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一次創作ブログ

【MOBSTERS】ア・パート・オブ・ラスベガス (前篇)【4部】

※あてんしょん!
 
・この小説は『MOBSTERS ラスベガス篇』のワンシーンです。
  しかもなぜか後半あたりです。
・「なんで途中なんだよ!」「つかプロローグの続きどうしたクソが!」
   などのお叱りはどうかご勘弁を…orz
・ベニーが主役のはずのラスベガス篇ですが、現在刑務所に服役中のため
  残念ながら今回彼は不在です()
・ほとんどがヴァージニアとマイエルのどーでもいい会話で、
  ストーリーに関する大事なことは後篇の終盤くらいしか言ってません。
  ぶっちゃけその辺まではすっ飛ばして読んでもらっても大して問題はありません。
・嫉妬する男と愚痴る女が苦手な方は閲覧されない方がよろしいかと思います。
・まだブログでは未登場のキャラの名前も出てきます。
・その他相変わらずいろいろと説明不足なところがありますがあしからず…。
 
 
以上のことをご理解いただいた上でご覧いただけると幸いです^^;では!ノシ
 
 
 

 
 
 
「おたくの嫉妬虫、ナントカしてくださらない?マイヤー」
 
「誰のことだ?」
 
 
ヴァージニア・ヒルという女に会うのはこれが三度目だった。
最初に会った時、彼女は俺たちの昔馴染みの一人でもあるギャング、ジョーイ・Aの女だった。
 
二度目に会った時にはどういう経緯か、俺の弟分の恋人になっていた。
奴がこのラスベガスにカジノホテルを造るなどと無茶な話を持ちかけてきたのもこの時だった。
 
そして今が三度目である。
「フラミンゴホテル」の建築状況を確認するため、多忙なスケジュールの中ニューヨークから何日もかけてこの砂漠地帯にやって来たのだ。
 
ヴァージニアは今あいつの恋人兼秘書であるが、訳あって不在中の奴に代わりフラミンゴホテル建設の現場監督を務めている。
 
 
「ベニ―よ!!今まで我慢してきたけど、私今回のことでほとほと愛想が尽きたわ」
 
怒り混じりの溜息をつき、ヴァージニアは手に持つホテルの見取り図を脇に挟むように腕を組みながらそう言った。
 
「また…何かあったのか」
 
彼女と会ったのは確かにたったの三度なのだが、この手の台詞を聞くのはこれで何度目になるのだろうか…。
 
 
「昨日あの人に会いに行ったんだけど、私が「この前電話でマイヤーと話したら、彼が私は貴方の代わりをよく務めてるって私の仕事を誉めてくれたわ」って言ったの。そしたらあの男…なんて言ったと思う?『あれは俺の仕事だ、お前が誉められる必要はない。そんな薄っぺらい誘い文句で調子乗ってるのか?そんな馬鹿な女だったのか?!あの建築士の優男と浮気したと思ったら、今度は俺の親友とイチャつくつもりか!!』ですって!」
 
 
「…そうか」
 
「なによその反応。何か言いたいことはないの?あいつ私とあなたの浮気を疑ってるのよ!信じられない!!頭に虫でも湧いてるんじゃないの?!」
 
 
正直言葉が出ないんだ。
正確には呆れてものも言えないと言ったところだ。
 
だが傷ついた女を邪険に扱ってやるわけにはいかないし、兄貴分として奴のことも少しくらいはフォローしてやるべきだろうと考えた。
 
 
「いつもの我儘さ。久々に刑務所暮らしが長引いてるからストレスが溜まってるんだろう。あいつが根拠のない言いがかりをつける時は大体単に機嫌が悪いからなんだ」
 
だから俺にとって、その程度の言いがかりはすべて「ベニーの我儘」で済ませてきた。
よくあること、いつものことだった。
 
来年であいつも40になるが、俺が思うに出会った頃と何一つ変わらない。
あいつは30年前から何も変わらず、手のつけられない悪ガキのままなんだ。
 
今までロクに考えもせず、そう決めつけていた。
 
 
「私はあなたみたいにあの人と長い付き合いじゃないし、気の長い性格でもないのよ。短気はお互い様だけどね、あの嫉妬深さは異常よ!自分の方こそ出張だ集会だと言って散々私を連れ回した挙句、行く先々で好みの女を見つけては絡んでるくせに…いやらしい。今頃だってきっと女刑務官を檻の中から口説いているに決まってるわ!」
 
ヴァージニアの怒りはこれまでで一番激しいものだとすぐにわかった。
表情や手振りにもその感情は露骨に表れ出していたからだ。
 
彼女の脇の下でグシャグシャに握りしめられた見取り図をチラと見ながら俺は黙って聞いていた。
 
 
女の愚痴は黙って聞いてやるのが一番有効である。
別に第三者たる人間に何か明確なものを求めているわけじゃない。
 
俺はベニーのように女を多く経験したわけでは決してないが、そんな俺でもそのくらいのことはわかってやれた。
 
ただいつでもそれが限界だったというだけだ。
 
 
「そう、もう限界よ…」
 
 
一瞬心を読まれたのかとハッとした。
すぐにそうではないとわかったが。
 
何度も落ち着きなく空を仰ぐヴァージニアの姿に憐れみさえ感じていた。
 
 
背広の胸に入れていたハンカチを出すことは簡単なことだったが、
女の化粧が混じったそれはなかなか洗い流せない。
 
俺は器用でもなければ大きくもなかった、「そういう男」だから――。
 
だから、彼女の瞳から零れるものに言い訳をした。
砂漠に降り強い日差しで見えなかったんだと。
 
 
(続く)
※次回で終わりますm(__)m